和尚のひとりごと№1358「浄土宗月訓カレンダー6月の言葉」

和尚のひとりごと№1358「こころ耕す なむあみだぶつ」

 

 日本人の宗教行為としては「お墓参り」と「初詣」がダントツに多く、70パーセント以上の方が恒例行事として行なっているようです。しかし単なる恒例行事、各家庭内での一つのイベント事として捉えられてはいないでしょうか。単なるイベントではなく、私たちが生きていく上で、心の支えになる行事となるのが宗教儀礼です。

 「ご先祖様は子や孫たちを幸せにする力がある」と言われます。近代思想家であり、民俗学の父と言われた柳田國男(やなぎだくにお)氏(1875-1962)が『先祖の話』という書物で記されています。「幸せにする力がある」というのは非科学的な力が存在するかどうかということではありません。「幸せにしてくれる力がある」と思う心を育てさせていただけるということでしょう。

 自分の存在を考えてみますと、父と母が居て今の自分が生まれてきたのです。その父と母にもそれぞれ父と母が居て生まれてきたのです。今の自分から見れば祖父と祖母です。父方の祖父も居れば母方の祖父も居ます。その祖父祖母にもまた父と母が居て生まれてきたのです。遡って計算すると、10代前では1024人、25代前では33554432人の父と母が存在したことになります。それだけの父と母が横一列に並ぶ計算です。今の自分に至るまで数えるには、それぞれの父と母を全て足していくことになります。そう考えるととても数多くの父と母が居て今の自分が存在することになります。それがご先祖様です。その中一人でも欠けると今の自分は居てなかったことになります。会ったことは無いご先祖様ですが、確かにその時代時代に生きておられて命を繋いでこられた方々であります。途中で途切れていく縁もあります。しかし、血の繋がりの有る無しに関わらず沢山の人たちのご縁をいただいて今生かされているのです。

 「お墓参り」に行かれてご先祖様に感謝を申し上げる。命の繋がりに想いを馳せて有難いと思う心を育てさせていただくのです。あるいは「初詣」に行って家内安全や健康祈願をされます。幸せを願う気持ちと同時に、沢山の人たちのご縁をいただいて今生きていることへの尊さを感じさせていただけるのです。信仰は今をしっかりと生き切る心の支えになります。お念仏を申して心の田んぼを耕させていただき、共々に信仰を深めて参りましょう。